工場を建てる土地が足りない!?GIS×AIは産業用地選びをどこまで楽にできるか
日本で工場を建てられる土地が足りなくなるなか、GISと地理空間AIは候補地選びをどう変えるのか。実務と研究、その先に必要なデータまで探ります。

工場を建てたい企業が現れたとき、自治体が最初に返したいのは「ここなら建てられます」という土地の情報です。国内企業が新しい生産拠点を探すときも、海外企業を地域へ呼び込みたいときも、話はそこから始まります。
ところが、その土地が足りなくなっています。
経済産業省は2023年、46道府県と20政令市へ、こんな趣旨の質問をしました。自治体や市町村、民間事業者が新しい産業団地を整備し、販売できる区画を増やさなかった場合、現在の空き区画はいつ尽きる見込みか。
その約8割が「5年以内」と答えています。ここで枯渇するのは、道路、電気、水道などを整え、企業へ紹介できる空き区画です。さらに、「企業からの問い合わせに応えられる団地を確保できていない」と答えた42府県では、販売できる産業用地の面積がこの10年で半分ほどになりました。経済産業省「地方での投資促進に向けた産業用地の確保について」

経済産業省の調査では、分譲できる産業用地の減少が続いています。出典:経済産業省「地方での投資促進に向けた産業用地の確保について」PDF 8ページをDATA WORLDが画像化(公共データ利用規約 第1.0版)
半分です。かなり厳しい減り方ですよね。
工場が求める条件はいくつもあります。食品工場には大量の水が必要ですし、物流拠点では高速道路への出やすさが効きます。データセンターなら、大量のコンピューターを動かせる電力が欠かせません。災害の危険性や、働く人が通える範囲も確かめます。
選べる土地が減る一方で、比べる条件は多い。日本中を現地確認する前に、まずデータで候補を絞る必要があります。その入口では、すでにGISが使われています。人が担っている比較へAIも加われば、産業用地探しはどこまで楽になるのか。いま、その可能性を確かめる研究が進んでいます。
4万区画の土地を200区画まで絞ることができる"GIS"
GIS(地理情報システム)は、地図の上で「場所」と「その場所に関する情報」を結びつけて扱う技術や仕組みの総称です。国土交通省の説明では、地図への表示に加えて、データの管理、加工、分析までがGISに含まれます。
土地のデータには、区画の境界、面積、現在の使われ方などが記録されています。道路のデータには道路が通る位置があり、ハザードマップには浸水が想定される範囲と深さがある。人口統計も、どの地域に何人が暮らしているかという場所の情報を持っています。

国土交通省の資料をもとに、GISで別々の地理情報を同じ位置に重ねる仕組みをDATA WORLD編集部で再構成しました。出典:国土交通省「GISとは」(公共データ利用規約 第1.0版)
こうした別々のデータを同じ位置にそろえると、GISのソフトウェアで距離や重なりを計算できます。候補地を探す担当者は、「高速道路の出入口から10キロ以内」「5ヘクタール以上」「想定される浸水の深さが自社の基準内」といった条件から、詳しく調べる土地を絞っていきます。
ここでいうGISには、目的に合わせて選べる複数のソフトウェアやクラウドサービスがあります。GISの専門家、エンジニア、自治体の担当者などが、目的に合わせてデータと分析条件を組みます。企業へ渡る形も、候補地の一覧、地図、報告書、専用の検索画面などさまざまです。
米国で太陽光発電所を開発するUS Solarにも、GISと候補地選びを担当する社内チームがあります。このチームは、土地の境界、面積、現在の使われ方などを集める仕組みと、発電所の候補地を探す専用ツールを作りました。事業担当者が州や郡、必要な広さ、変電所までの距離を指定すると、条件に合う土地を調べられます。変電所は、発電した電気を送電線へ流すために電圧を調整する設備です。土地との距離が離れるほど、接続工事の負担も大きくなります。
この仕組みによって、約4万区画から有望な200区画まで絞れるようになりました。候補は200分の1です。US Solarは、担当者を増やさず、詳しく評価する土地の数を2倍にできたと説明しています。Esri「US Solar Brings New Efficiencies to Site Selection」
4万区画の情報を一つずつ確認する仕事と、200区画を詳しく調べる仕事では、かかる時間がまるで違います。GISが産業用地探しで活躍している理由が、よく分かる事例です。
日本でも、経済産業省の「METI土地ナビ」と産業用地マッチング事業が、工場向けの土地情報を集め、企業の希望に近い候補を案内しています。土地探しの入口には、すでに地図とデータが入っているんですよね。

METI土地ナビでは、地域ごとに自治体の企業誘致情報や産業団地を探せます。出典:経済産業省「産業用地情報」をDATA WORLDがWebP形式に変換(公共データ利用規約 第1.0版)
200区画から先は、企業ごとに「いい土地」が変わる
物流拠点を例に、配送時間30点、高速道路への入りやすさ25点、土地価格20点、災害リスク15点、働き手の確保10点の合計100点で比べてみます。土地価格の配点を増やせば郊外の候補が上がり、配送時間を重くすれば都市に近い候補が上がる。点数の付け方で、順位は簡単に動きます。
経済産業省の2025年工場立地動向調査でも、関東では高速道路、近畿では人材、中国では自治体の助成が立地理由の上位に入りました。工場の種類や事業方針に加えて、進出する地域によっても土地を見る物差しは変わります。

企業が重く見る条件は複数あり、業種によっても差があります。出典:経済産業省「地方での投資促進に向けた産業用地の確保について」PDF 6ページをDATA WORLDが画像化(公共データ利用規約 第1.0版)
GISの専門家や自治体の担当者は、企業から希望を聞き取り、条件の重みを調整して、候補を計算し直します。順位が変われば、なぜその土地が上がったのかも説明する。企業との打ち合わせで条件が変わるたび、この比較をやり直すことになります。
GISは膨大な土地を絞る仕事で力を発揮しています。その先に残っているのが、企業ごとに条件を読み替え、何度も比較し、理由を説明する仕事です。
この繰り返しをAIが引き受けてくれたら、担当者は現地確認や企業との交渉にもっと時間を使えます。29区域から3区域へ。AIは候補地をどこまで選べるか
担当者が何度も行う条件調整を助ける技術として、地理空間AI(GeoAI)の研究が進んでいます。GISに集めた位置情報をAIで分析し、複数の条件から候補地の特徴や順位を見つけます。
産業用地探しに応用するなら、企業が重視する条件に合わせて複数の配点を試し、候補地と評価の根拠を示す役割が考えられます。高速道路と人材の条件で評価が高い土地、価格は抑えられるものの電力の余裕をまだ確認できていない土地、といった違いまで整理できれば、担当者は有望な候補と追加調査が必要な項目を一緒に見られます。
トルコのイスタンブールでは、船を建造し、修理する造船所の候補地選びにAIとGISが試されています。この研究は、2026年に海洋工学の学術誌『Ocean Engineering』へ掲載されました。
研究チームは、水深、送電線までの距離、土地の傾き、高さなどの情報を使って市内を評価し、29区域から有望な3区域を示しました。現在ある主要な造船所も、AIが高く評価した区域に含まれています。

研究では、29区域を複数の条件で評価し、AZ_18、AZ_25、AZ_24を有望な候補として示しました。出典:Doğan、Başeğmez、Aydın「Integrating machine learning algorithms and game theory for optimized shipyard site selection in Istanbul」を基にDATA WORLDが作成。地図は研究の流れを示す概念図です。実際の候補地の位置とは異なります。
この研究で確認したのは、AIを使って詳しく調べる区域を絞り、その結果を既存の造船所と照らすところまでです。建設地の決定には、電力や水の供給、土地の権利、許認可、地域との合意など、現地で確かめる情報は、人の手に残ります。
条件の多い産業施設について、AIが候補区域を絞るところまで検証が進んでいます。人が何度も行っている比較を助けられる可能性は、研究の中ですでに見え始めています。
古い地図を、AIと衛星画像で更新する
候補地を正しく比べるには、現在の土地に合った地図が必要です。空き地に建物が建ち、農地の使われ方が変わり、新しい道路が通れば、以前の地図を使った評価は現実からずれていきます。
地理空間AIは、この地図を更新する仕事にも使われ始めています。衛星画像から建物や農地、森林の変化を見つけ、人が地図へ反映する作業を補助します。

現在の土地利用データづくりには、衛星画像を判読して地図へ反映する人の作業が残っています。出典:国土交通省「AI等の先進技術を用いた国土数値情報整備手法の高度化検討」をDATA WORLDがWebP形式に変換(公共データ利用規約 第1.0版)
国土交通省は、全国の土地が現在どう使われているかを示すデータづくりにAIを試しています。衛星画像を人が確認し、農地、住宅地、森林などへ分けていた工程の一部をAIで処理することで、費用を抑えながら更新回数を増やす狙いです。2024年度は、試作した仕組みの精度を確かめる段階でした。国土交通省「AI等の先進技術を用いた国土数値情報整備手法の高度化検討」

試作中のAIは、衛星画像の一つひとつの区画について、森林や建物などの割合を示します。出典:国土交通省「AI等の先進技術を用いた国土数値情報整備手法の高度化検討」をDATA WORLDがWebP形式に変換(公共データ利用規約 第1.0版)
候補地の比較と、その比較に使う地図の更新。地理空間AIの研究は、土地探しの前準備にも広がっています。
企業が探す土地と、自治体が持つ土地を結びたい
産業用地探しがもう一段楽になるのは、企業の希望と各地の土地情報を最初から比べられるようになったときです。
地理空間AIには、企業が伝える面積、電力、水、交通、操業時期を各地の土地情報と照らし合わせ、条件に近い候補と理由を整理する役割が期待されています。「五つの条件のうち四つは確認済みで、残る確認は一日に供給できる水の量」と分かれば、次に誰へ何を聞くべきかまで見えてきます。
この仕事の土台は、すでにできつつあります。経済産業省の産業用地マッチング事業は、公開されていない土地情報も含め、企業の希望に応じて候補を抽出しています。米国テキサス州で企業誘致を担う地域団体も、鉄道、空港、上下水道、支援制度などをGISへまとめ、進出を考える企業が候補地を調べられるようにしました。Esri「With GIS-Based Site Selection Solution, Corpus Christi Gains a Development Edge」
日本ではJETROも、自治体、大学、地域企業などと連携し、外国企業や外資系企業の地域への進出を支援しています。JETRO「地域エコシステムへの外国・外資系企業誘致活動」
現在は、GISやマッチング事業が候補を探す入口を支えています。そこへ地理空間AIによる条件調整と根拠の整理が加われば、企業は全国の自治体へ同じ質問を繰り返す時間を減らせます。自治体側も、自分たちの地域がどんな企業に合うのか、具体的な条件から示しやすくなるでしょう。
私が面白いと感じたのは、候補地を探す速さに加えて、企業と自治体が最初に交わす会話まで変わるところです。候補に挙がった理由と未確認の条件が最初から分かっていれば、最初の問い合わせの段階で具体的な確認や交渉へ進めてしまうことができ、交渉の速度と粒度が劇的に変化していくでしょう。
地図の外にある「現実」をどう集めるか
この仕組みを実務で使うには、AIへ渡せる現実のデータが必要です。ところが、判断を左右する情報は、電力会社、自治体、不動産会社、土地の所有者など、いくつもの場所に分かれています。
最後の判断には、変電所や送電線から新しい工場へ回せる電力の余裕や、必要な時期までに確保できる水の量が影響します。土地の所有者と売買を進められるか、建設の許可や環境調査に何年かかるか、騒音や交通について地域と話し合えるかも確認が必要です。住所や面積だけでは見えない情報が、最後の決定を動かします。
しかも、電力の余裕や交渉の状況は変わります。契約や個人情報に関わる内容もあるため、公開範囲を細かく管理しなければなりません。誰が、どの情報を、どこまで共有するのかという設計も必要になります。
経済産業省の資料には、長期間使われていない工場用地について、国が十分に情報を把握できていないという課題も挙げられています。2025年に産業施設の場所選びに関する149本の研究を整理した論文は、データの品質、評価基準の決め方、AIが順位をつけた理由の説明を実用化の課題としています。Zhuほか「Industrial Site Selection: Methodologies, Advances and Challenges」
AIには、住所と面積に加えて、電力や水の量、利用できる時期、交渉の進み具合まで渡したい。いま工場を建てられるか判断するには、最新の状況と具体的な量まで分かるデータが必要です。その土地で事業を始めるまでの背景を、AIが扱えるデータへどう落とし込むか。AI×データを仕事にしている私たちにとっても、ここが大きなテーマです。
最後の一か所を選ぶために、データを持ち寄る
現在、GISは4万区画を200区画まで絞れるほど、候補探しを効率化しています。地理空間AIも、研究では29区域から3区域を示し、国土交通省では地図更新への試験が始まりました。人が繰り返している条件の比較と、古くなる地図の更新。その両方で、AIの使い方が試されています。
その力を産業用地の実務へつなぐには、別々の組織が持つデータを安全に持ち寄る必要があります。自治体が土地の在庫と許認可を更新し、不動産会社が所有者や交渉状況を扱える形に整え、電力や水を供給する事業者が利用できる時期と量を示す。企業からは、工場を動かすために譲れない条件を具体的に伝えてもらう。そして私たちのようにデータを扱う側が、名称、単位、更新日をそろえ、比較できる形へつないでいく。
条件を伝えれば、全国から有望な候補と評価の根拠が示される。担当者は本当に確認すべき数か所へ向かい、電力や水、権利関係、地域との合意を確かめたうえで、最後の一か所を選ぶ。
産業用地のように条件も関係者も多い仕事には、地図とAIが人を助けられる余地がたくさん残っています。研究で見えてきた可能性を実務で使えるところまで育てるには、現実に根ざしたデータと、それを持つ組織同士の協力が必要です。
そこまでつながった土地探しは、今よりずっと楽になるはずです。考えるだけでも、ちょっとワクワクしますよね……!
SOURCES ── 出典・参考
- 国土交通省『地理空間情報:GISとは』
- 国土交通省『国土数値情報ダウンロードサイト』
- 国土地理院『ハザードマップポータルサイト』
- 国土交通省『不動産情報ライブラリ』
- 経済産業省『産業用地情報』
- 経済産業省『2025年工場立地動向調査の結果について』
- 経済産業省『地方での投資促進に向けた産業用地の確保について』
- Esri『US Solar Brings New Efficiencies to Site Selection』
- Esri『With GIS-Based Site Selection Solution, Corpus Christi Gains a Development Edge』
- 国土交通省『AI等の先進技術を用いた国土数値情報整備手法の高度化検討』
- Doğan, Başeğmez, and Aydın『Integrating machine learning algorithms and game theory for optimized shipyard site selection in Istanbul』
- Zhu et al.『Industrial Site Selection: Methodologies, Advances and Challenges』
- JETRO『地域エコシステムへの外国・外資系企業誘致活動』


