AIは賢くなるほど腹が減る?進化が止まらないAIの"次の競争"
生成AIの進化を支える電力と学習データは、どこまで増やせるのか。公開テキスト300兆トークンの予測と、企業に眠るデータへ意味と利用条件を持たせる取り組みから、AI競争の次の焦点をたどります。
生成AIへ頼める仕事が増えていますよね。文章の要約から画像づくり、データ分析、プログラム作成へ。
最近は、必要な資料を探し、複数の道具を使い、結果をまとめるところまで進めるAIも登場しました。
画面の中では、回答が速くなり、扱える資料も増えています。
一方で画面の外へ目を向けると、別の変化が見えてきます。データセンターは発電所や送電網と接続し、半導体は電力と熱を抑える設計へ進む。そして、AIが学べる公開テキストの増加には限りが見え始めました。その外側では、工場や研究所、企業のシステムが、公開ウェブとは性格の違う記録を生み続けています。
AIが賢くなり、使われる場面が広がるほど、計算を動かす電力と、現実を判断するためのデータが要ります。 次の競争は、AIモデルの性能に加えて、企業や組織が持つ記録を、意味の通じる判断材料へ変える力まで含み始めています。
便利なチャットの裏で、何が増えているのか
ChatGPTなどの生成AIを支える中核が、AIモデルです。文章を扱う大規模言語モデルは、大量のテキストを細かな単位に分け、次に続く言葉を予測する訓練を重ねます。モデル内部の多数の数値を調整し、言葉同士の関係を捉えていく仕組みです。
AIの能力は、モデル内部の数値の数と、学習させるデータ量の組み合わせで変わります。Google DeepMindが2022年に発表したChinchillaの研究は、同じ計算量ならモデルをどこまで大きくし、どれだけの文章を学ばせるのが効率的かを調べました。
研究チームは、2800億個のパラメータを持つGopherと同じ計算量を使い、700億個のChinchillaへ約4倍の1.3兆トークンを学習させました。Chinchillaの大きさはGopherの4分の1です。それでも質問応答、読解、一般知識など、測定したほぼすべての課題でGopherを上回りました。モデルの器に見合うデータを学ばせる。その釣り合いが性能を左右したのです。

Gopherは2800億パラメータと約3000億トークン、Chinchillaは700億パラメータと1.3兆トークン。棒の高さは、パラメータ量と学習データ量を各項目の中で相対比較しています。出典:Google DeepMind「An empirical analysis of compute-optimal large language model training」をもとにDATA WORLD編集部作成。
現在は、学習時の計算に加えて、AIに長く考えさせる推論や、外部の道具を使わせる処理にも計算量がかかります。
半導体とソフトウェアの効率は上がっています。それ以上の速さで利用者と処理回数が増え、動画生成や長い推論のような重い仕事も広がる。全体の電力需要は膨らみ続けます。

データセンターは、サーバー、保存装置、ネットワーク、冷却設備、電力設備を組み合わせて動きます。出典:IEA「Energy demand from AI」、CC BY 4.0。
2030年、データセンターが日本一国分を超える
国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンターが使う電力量を2024年の約415TWhから、2030年には約945TWhへ増えると予測しています。現在の日本全体の年間電力消費を少し上回る電力量です。

実線は2020年から2024年までの実績、破線は2025年から2030年までの基準ケース予測。縦軸は年間電力消費量を表すTWhです。出典:IEA「Data centre electricity consumption by region, Base Case, 2020–2030」、CC BY 4.0。
またデータセンターは、世界の電力の約1.5%を使う施設です。それが6年で倍以上になる。
しかも需要は、データセンターが集まる地域へ集中します。発電量が足りても、必要な場所へ電気を運べなければ動かせません。
もう、チャットサービスの話だけでは収まりません。土地、発電、送電、冷却までがAIの性能を左右します。
この問題を、どう解決していくのか。
その対策は、異なる時間軸で同時に進んでいます。
| 取り組み | 何を変えるか | 現在地 |
|---|---|---|
| データセンターと送電網の増設 | 使える電力と計算機を増やす | 建設と投資が進行 |
| 半導体、接続、冷却の改良 | 同じ電力から得られる計算を増やす | 製品化と研究開発が進行 |
| 量子コンピューター | 特定の問題を別の計算方法で解く | 長期の研究段階 |
GoogleはAI向け半導体Ironwoodについて、前世代より電力あたりの性能が2倍になったと自社の測定値を発表しました。米国立標準技術研究所(NIST)は、小さなチップやメモリを近くに配置し、データを動かす距離と電力を減らす先端パッケージングを支援しています。

AIアルゴリズムで使うメモリーデバイスの性能を測るためにNISTが開発したチップ。画像:B. Hoskins/NIST。出典:NIST「NIST Google chip」。
増設で量を確保し、改良で一回の計算を軽くし、次の計算方法も研究する。電力の壁には、この三つの時計が動いています。
公開テキスト300兆トークン、その外側にあるデータ
計算機がそろっても、AIは学ぶ材料を必要とします。AIの進歩をデータから調べる研究機関Epoch AIは、品質と重複を調整した「人間が作った公開テキスト」の有効量を、中心値で約300兆トークンと推計しました。
トークンは、AIが文章を分けて数える単位です。現在の学習データ拡大が続くと、主要なAIの学習量は2026年から2032年の間に約300兆トークンへ届くと予測されています。

人間が作った公開テキストの有効量は、品質と重複を調整すると中心値で約300兆トークン。現在の拡大が続く条件では、主要なAIの学習量が2026年から2032年にこの規模へ届くと予測されています。出典:Epoch AI「Will we run out of data?」をもとにDATA WORLD編集部作成。
この予測が示す「壁」は、品質の高い人間の文章を集め、学習データをさらに大きくする方法が、これまでのペースでは続きにくくなる地点です。
これまでのAI開発には、計算機を増やし、次のモデルへもっと多くの文章を読ませるという分かりやすい道がありました。ウェブにはニュース、論文、ブログ、掲示板、プログラムが次々と蓄積される。その広さは、学習材料がどこまでも続くように見えていました。
「現在の拡大」が指すのは、次のAIへ読ませる文章量の増え方です。一方、人間が新しく書く良質な公開文章は、同じ速さでは増えません。AIの読書量だけが速く増えれば、やがて公開ウェブの本棚を一周し、前に読んだ文章をもう一度使う割合が高くなります。コピーを増やしても、新しい知識は増えない。AIへ読ませる量が、人間の新しい教材が増える速さに追いつく。 これが300兆トークンの先に見える壁です。
では、世界のデータは、ウェブにある情報だけでしょうか。
いいえ。それだけではありません。
その広さを表す参考値があります。NEDOが2025年に公表したデータ流通の委託調査は、世界で生まれるデータの規模を175ZBと置きました。1ZBは1兆GB。175兆GBという、ちょっと目が追いつかないほどの量です。
同調査は、そこから複製を除いた固有データを17.5ZBと仮定しました。そのうち、AIの学習へ現状では活用しにくいデータは約16ZB。世界にあるデータの多くは、AIがまだ読める状態になっていない。 実はそういう世界観なんです。
その中には、工場のセンサー、実験結果、保守記録、顧客からの問い合わせ、設備の変化を追える履歴、熟練者が判断の理由を書いた日報などなど...現場でしか見えないものがあります。
ここでは、こうした現場で実際に生まれる記録を**「リアルデータ」**と呼びます。
公開テキストがAIの一般的な言語能力を育てる材料なら、こうした記録は、特定の設備や顧客について判断する材料になります。
リアルデータが何を意味するのかを伝えるコンテキストも、あなたの職場が積み重ねてきた記録の中にあります。
その記録は会社や部門ごとのシステムに分かれていますよね。項目名や単位がそろわず、いつ、誰が、何のために記録したのかという説明も欠けることもある。OECDがAIを導入する製造業とICT企業へ行った調査でも、企業は専門性と独自性の高い民間データを重視する一方、機器や部門をまたぐ統合、用語、文書、品質に課題を抱えていました。
ここで競争の軸が一つ増えます。同じAIモデルを複数の企業が利用できる時代には、モデルを導入した後の設計が残ります。その会社の仕事を理解する材料をどこまで届けられるか。
必要な記録を見つけ、業務上の意味と利用条件を添えてAIへ渡す力が、現場で得られる答えを変えます。
「82度」だけでは、AIも故障を判断できない
たとえば、工場の記録に「モーター温度82度」と残っていたとします。AIが異常かどうかを考えるには、どのモーターか、通常は何度か、いつ測ったか、直前に部品を交換したか、その後に振動が増えたかという情報が要ります。
この周辺事情がコンテキストです。データが何を表し、どこで、どんな条件で生まれ、誰がどう使えるのか。 82度という数字は、コンテキストと結びついて初めて判断材料になります。

「82℃」という測定値へ、通常値、時刻、整備履歴、振動の変化がつながると、故障の兆候を考える材料になります。本文の例をもとにDATA WORLD編集部作成。
現場では、温度が設備のデータベースに、交換履歴が保守会社のシステムに、担当者の違和感が日報に残ることがあります。取引先の仕様書には利用条件もあるでしょう。AIが一度に読める文章量を増やしても、資料の場所が分からず、意味や権限がつながっていなければ、必要な情報は手元へ届きません。
データを見つけられる形にし、由来や測定条件を残すことは、人間の研究でも同じ課題です。全米科学アカデミーの報告は、最低限の説明情報を欠き、発見や再利用が難しくなった研究データを「dark data」として扱っています。暗いという言葉が示すのは、秘密であることより、必要な人から見えなくなっている状態です。
AIが扱える文章量が増えても、必要な記録の場所、意味、権限がつながるとは限りません。ダークデータをAIレディ、つまりAIが目的に沿って扱える状態へ変える仕事は、記録へ光を当て直す作業です。
組織をまたぐデータに、ODSは何を足すのか
工場、保守会社、部品メーカーが一つの設備を支えている場合、すべてのデータを一か所へ集める運用は難しくなります。温度データは工場で更新され、交換履歴は保守会社が持ち、部品の仕様はメーカーが管理しています。すべてをコピーして集めるほど、更新のずれや利用条件の確認が増えていきます。
各社は元データを管理しながら、必要な相手へ、決められた目的の範囲で渡す仕組みを求めます。
日本でこの課題に取り組む技術構想が、Open Data Spaces(ODS)です。情報処理推進機構(IPA)はODSを、国や組織ごとの違いを保ちながらデータを扱う分散データ管理の技術コンセプトと説明しています。
ODSがつなごうとしているのは、主に三つです。
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必要なデータがどこにあるか
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項目、単位、由来が何を意味するか
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誰が、どの目的で、どこまで使えるか
2026年4月には、設計資料、通信の決まり、試作に使えるソフトウェア、導入ガイドが公開されました。
AIが現場の仕事へ深く入るほど、正しい資料を見つけ、意味を読み、許された範囲で使う力が重くなります。AIが故障の兆候を見つけ、交換部品を選び、発注まで進めるなら、回答の正しさに加えて、参照したデータの由来と実行してよい権限が要ります。
企業固有のデータを経営資源へ変えるには、この地味な整備を飛ばせません。ODSは、その入口を組織の外まで広げようとする取り組みです。
AIの「空腹」から、まだ知らない世界が見えてくる
AIが賢くなるほど足りなくなるものは、電力と、現実のデータ(リアルデータ)と、意味のあるコンテキストです。
電力の側では、945TWhという需要予測に対して、発電と送電、半導体、冷却の改良が進んでいます。学習の側では、約300兆トークンという公開テキストの壁が見え始めました。その外側には、AIがまだ読める状態になっていない膨大なリアルデータがあります。
そして利用の現場には、もう一つの競争があります。広く使えるAIモデルが増えるほど、各社の仕事に固有のリアルデータと、その意味を説明するコンテキストが答えの違いを生みます。保守記録の保有は出発点です。通常値、測定条件、整備履歴、利用権限までつながったとき、82度という数字が判断材料へ変わります。
この話は、人間にもつながっています。世界には、私たちがまだ知らない観測、記録、研究結果があります。誰が、何のために、どんな条件で集めたデータかを観測したとき、私たちの世界の見え方が一気に変わります。
私は、その瞬間が好きです。海の観測記録から地球の変化が見え、地域の統計から暮らしの形が見え、産業の数字から新しい仕事の種が見つかる。知らなかったデータと出会うと、いつもの景色にもう一枚、別の地図が重なる。
DATA WORLDは、埋もれたデータを見つけ、出典と背景を確かめ、初めて触れる人にも届く形へ編集します。AIへコンテキストを渡す技術が進む時代に、私たちは人へコンテキストを渡したい。ビジネスのヒントや日常の発見につながる、未知の世界への入口をつくっていきます。
SOURCES ── 出典・参考
- International Energy Agency『Energy and AI』
- Google DeepMind『An empirical analysis of compute-optimal large language model training』
- Villalobosほか『Will we run out of data? Limits of LLM scaling based on human-generated data』
- NEDO『AI活用におけるデータ流通環境整備に関する調査』
- OECD『The Adoption of Artificial Intelligence in Firms』
- National Academies『Life-Cycle Decisions for Biomedical Data』
- NIST『National Advanced Packaging Manufacturing Program』
- Google『Ironwood: The first Google TPU for the age of inference』
- Nature Machine Intelligence『Seeking a quantum advantage for machine learning』
- 情報処理推進機構『Open Data Spaces(ODS)』
- 情報処理推進機構『Open Data Spaces(ODS)の成果物を公開』
- European Commission『Common European data spaces』


