森の重さを宇宙から測る?衛星が蓄積する"炭素"のデータベース
森が蓄える炭素は、なぜ数える必要があるのでしょうか。FAOが示す714ギガトンの意味と、ESAのBiomass衛星が幹や枝の重さを推定し、森林の変化を追う仕組みを読み解きます。

森は、空気中の二酸化炭素を取り込みます。その炭素は、幹や枝、根、土壌に蓄えられます。
では、地球上の森に炭素がどれだけあるのか。正確に答えようとすると、急に難しくなります。
現地調査では、人が木の幹の太さや高さを測り、樹種ごとの計算式から重さを見積もります。精度を支える大切な作業です。ただ、世界の森を一本ずつ、しかも何度も測り直すことはできません。
この測定を宇宙から補うのが、森林観測衛星です。欧州宇宙機関(ESA)は2025年4月29日、「Biomass」を打ち上げました。名前をそのまま訳すと「生物の量」。かなり直球です。
Biomassは、葉の奥にある幹や太い枝から返る電波を捉えます。その反応を地上の測定結果と組み合わせ、一定の面積にある木の重さを推定する仕組みです。
森の炭素を測る目的は、大きな数字を一度出して終わることではありません。今どれだけ残っているかを基準にして、伐採や火災で減ったのか、成長や再生で増えたのかを追うためです。
この記事では、国連食糧農業機関(FAO)が世界の森林炭素を調べる理由と、衛星が森の「地上部の木の重さ」をどう地図にするのかをたどります。先に答えると、森林にある炭素の総量は「残高」、毎年の増減は「出入り」にあたります。衛星が力を発揮するのは、その出入りがどこで起きたかを繰り返し確かめる場面です。
714ギガトン。森林にある炭素の「残高」
FAOは5年ごとに「世界森林資源評価」を公表しています。2025年版は236の国と地域を対象に、各国から集めた公式データを共通の項目で整理したものです。森林の面積、木材の量、炭素、生物多様性、管理や利用の状況まで調べています。
なぜ国連の食料と農業を担う機関が、そこまで森を調べるのでしょうか。
森林は木材や燃料を供給し、人の暮らしや食料生産を支えています。同時に、水や土を守り、多くの生物のすみかになり、炭素の行き先を左右します。どこで森が減り、どこで回復しているのかが分からなければ、保全策や林業政策を決めても、その効果を確かめられません。
FAOによると、この評価のデータは、森林の現状を共有するだけでなく、各国の政策、投資、持続可能な森林管理、気候変動や生物多様性に関する国際目標の判断材料として使われます。世界の森に同じ形式の「定期健康診断」を行うような調査です。
その診断項目の一つが、炭素の総量です。FAOの2025年データでは、世界の森林が蓄える炭素は713.91ギガトン。丸めると714ギガトンです。1ギガトンは10億トンなので、7140億トンにあたります。
この総量は、森林が1年間に吸収した量ではありません。長い時間をかけて木や土にたまってきた炭素の「残高」です。
残高が大切なのは、森林が成長すれば増え、伐採、火災、土地転換、枯死などが起きれば減るからです。減った炭素の一部は、分解や燃焼を通じて大気へ戻ります。総量を同じ方法で繰り返し調べることで、森林が炭素の保管場所としてどのように変わったかを追えます。
実際、FAOは総量とは別に、毎年の「出入り」も計算しています。2021〜2025年には、森林として維持された土地が年平均36億トンの二酸化炭素を吸収する一方、森林から別の土地への転換などで年平均28億トンが排出されました。差し引きすると、世界の森林の炭素残高は二酸化炭素換算で年平均8億トン増えた計算です。
714ギガトンだけを見ても、森の状態が良くなっているかは分かりません。総量は、変化を測るための基準点です。「いくらあるか」と「増えたか、減ったか」を組み合わせて、初めて政策に使える数字になります。
714ギガトンには、生きている木の地上部と根だけでなく、枯れ木、落ち葉、土壌にある炭素も含まれます。森林の炭素は、目に見える幹だけに入っているわけではないんですよね。
| 炭素がある場所 | 世界の森林炭素に占める割合 |
|---|---|
| 土壌 | 46% |
| 生きている植物(地上部と根) | 44% |
| 枯れ木と落ち葉など | 10% |
出典:FAO「Global Forest Resources Assessment 2025」、FAO「Forest emissions and removals」

森林炭素の総量は炭素の重さ、年間の吸収・排出は二酸化炭素の重さで表示。出典:FAO「Global Forest Resources Assessment 2025」「Forest emissions and removals」
Biomass衛星が主に調べるのは、このうち地上にある生きた木の部分です。森林研究では「地上部バイオマス」と呼びます。幹、樹皮、枝、小枝などを乾燥させたときの重さを、1ヘクタールあたり何トンあるかで表します。ESAの長期データでは、切り株と根は対象外です。
木の乾燥重量が分かれば、炭素量へ換算できます。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の標準値では、地上部の森林バイオマスに占める炭素の割合は0.47です。たとえば、地上部バイオマスが1ヘクタールあたり200トンなら、単純な標準換算では約94トンの炭素に相当します。実際には樹種や部位で割合が違うため、これは概算です。
70センチほどの電波が、葉の奥にある木質部を捉える
Biomassは「Pバンド」と呼ばれる、波長が約70センチのレーダーを使います。レーダーは自ら電波を送り、地表や森に当たって戻る信号を読み取る装置です。雲があっても観測でき、長い波長は葉の層を通り抜けやすいため、幹や太い枝など大きな木質部の情報を得やすくなります。
森を普通のカメラで撮ると、主に見えるのは上側の葉です。Pバンドは、その奥にある幹や枝からの反応も拾えます。森の表面だけ見ていた観測が、内部の構造へ一段深く入るわけです。
測定は、おおまかに次の流れで行われます。
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衛星が森へ複数の向きの電波を送り、返ってくる強さや性質を記録する
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同じ場所を角度や時期を変えて観測し、森の高さや立体構造を推定する
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地上調査や航空機からのレーザー測定と照らし合わせ、電波の反応を木の重さへ変換する
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木の重さに炭素の割合を掛け、炭素蓄積量の目安を出す
ESAによると、Biomassは最初の約18カ月、同じ場所を7回観測して森の立体地図を作ります。縦方向は15〜20メートル、地表面では200メートル単位の地図を目指します。その後は、同じ地域を短期間に3回観測し、森林の高さと地上部バイオマスの変化を追います。
タイトルにある「幹を捉える」は、この仕組みを短く表した言葉です。衛星が一本ずつ幹の太さを測る、という意味ではありません。幹や枝で散らばった電波を観測し、現地のデータで確かめた計算モデルを通して重さを推定します。

Pバンドによる地上部バイオマス推定の模式図。参考:ESA Biomass mission
約20年分の地図が、炭素の増減を場所に結びつける
Biomass衛星のデータが加わる前から、森林の重さを宇宙から追う取り組みは進んでいました。ESAの気候変動イニシアチブは2026年、2005〜2012年と2015〜2024年をカバーする18枚の年次地図を公開しています。最も細かい地図は100メートル間隔です。
この長期データは、欧州のEnvisatとSentinel-1、日本のALOS-1とALOS-2など、複数の衛星のレーダー観測を組み合わせています。地上部バイオマスの推定値だけでなく、各地点の不確かさや、年の違う地図を比べた変化量も提供されます。
一時点の地図は、その瞬間の森の重さを示します。20年近くの地図を同じ物差しで並べると、変化の方向まで見えてきます。伐採や火災の後に木の重さが落ちた場所。再生によって戻りつつある場所。FAOが世界全体の「残高と出入り」を示すのに対し、衛星地図は変化が起きた場所を細かく探す手がかりになります。

衛星による長期観測の読み方を示す模式図。実際の観測値や特定地域の地図ではありません。参考:ESA Climate Change Initiative Biomass
国や自治体にとっては、温室効果ガスの報告を現地調査とは別の角度から確かめる材料になります。企業の森林保全や炭素クレジットでも、計画通り木が増えているかを広域で調べる手がかりになるでしょう。
とはいえ、衛星の推定値だけでクレジットの量や事業の成果を決めることはできません。土地の利用履歴、現地測定、採用した計算方法まで確認して、初めて判断材料になります。
一枚の地図には、測れる炭素と測れない炭素がある
衛星地図は、森を体重計へ載せた結果ではありません。推定値として読むうえで、主に三つの限界があります。
第一に、電波から木の重さへ変換するには、現地の測定データと計算モデルが要ります。樹種、木の形、水分、地形が変われば、同じ重さでも電波の返り方は同じとは限りません。
第二に、木が非常に密集した森では、信号の変化が頭打ちになることがあります。ESAが2025年に発表した旧版の長期データは、1ヘクタールあたり400トンを超える高密度の森林で推定が難しいと説明していました。約70センチのPバンドを使うBiomassには、短い波長の衛星より密林の大きな木質部を捉え、不確かさを減らす役割が期待されています。それでも、推定であることは変わりません。
第三に、Biomassが主に測るのは地上部です。根、枯れ木、落ち葉、特に森林炭素の約46%を占める土壌は、別の調査やモデルが必要です。「地上部バイオマスの地図」と「森全体の炭素量」は区別して読む必要があります。
ESAの長期データには、画素ごとに推定のばらつきも収録されています。値と一緒に「どの程度確かか」を渡す設計です。
データを仕事で扱う私たちにとって、これはかなり大切です。見栄えのいい一枚の地図だけ渡されても、その数字をどこまで信じてよいか分かりません。不確かさが見えれば、現地調査を増やす場所や、結論を慎重にする場所を選べます。
衛星が増やすのは、森を守ったか確かめる力
森が蓄える炭素の総量は、木、根、土壌などを合わせて推定714ギガトンです。この数字だけで、世界の森が良い状態か悪い状態かは判断できません。炭素の「残高」を示し、次の調査と比べる基準になる数字です。
衛星が変えつつあるのは、広い森を同じ物差しで、何度も見直せることです。Biomassは、葉の奥にある幹や枝から返る電波を使い、地上部の木の重さを推定します。そこに地上調査と炭素への換算を重ねて、ようやく炭素の地図になります。
「森は炭素を吸う」という事実は、以前から知られていました。衛星が増やすのは、その先を確かめる力です。どの森にどれだけ残っているのか。伐採や火災でどれだけ失われ、再生によってどこまで戻ったのか。
衛星は、森の価値を自動で決める装置ではありません。守ったつもりで終わらせず、その結果を同じ物差しで確かめる。Biomassが届ける木の重さの地図は、そうした検証の土台になっていきます。
参考文献・出典
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ESA「Stunning images from Biomass mark its one year in orbit」(2026年4月29日)
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ESA「Biomass launched to count forest carbon」(2025年4月29日)
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ESA Climate Change Initiative「Latest satellite record sharpens global forest carbon maps」
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FAO「Forest emissions and removals. Global, regional and country trends」(2025年10月21日)
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IPCC「2006 IPCC Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories, Volume 4, Chapter 4」


